徳島地方裁判所 平成2年(行ウ)1号 判決 1994年2月18日
原告
圃山靖助
右訴訟代理人弁護士
井上善雄
同
阪口徳雄
同
小田耕平
同
山本勝敏
被告
(徳島県知事) 三木申三
同
(県議会事務局長) 永岡豊
同
(県議会事務局次長兼総務課長) 豊岡慶昭
同
(県議会議長) 阿川利量
(ほか三八名)
右被告ら訴訟代理人弁護士
島内保夫
理由
二 本件訴えの適法性について
1 被告阿川利量及び同桑内利男は、地方自治法二四二条の二第一項四号にいう普通地方公共団体の住民による「当該職員」に対する損害賠償請求は違法な財務会計上の行為を行う権限を法令上本来的に有するとされ若しくはその者から権限の委任を受けるなどして右権限を有するに至った職員に対してのみ許されるものであるところ、右被告らはかかる職員に該当しないから、右両名に対する訴えは法により特に出訴が認められた住民訴訟の類型に該当しない訴えとして不適法であると主張する。
しかし、原告は、被告阿川利量及び桑内利男が他の被告らと共謀して、組織的に違法な本件タクシー券の交付を受けその利用を重ねたとして、右被告らを地方自治法二四二条の二第一項四号後段の「当該行為に係る相手方」として、代位請求訴訟を提起しているものと解されるところ、このように、当該行為の相手方に対する代位請求訴訟において被告適格を有する者は、原告において地方公共団体に対し実体法上の請求権を履行する義務があると主張されている者と解するのが相当であるから、共同不法行為によりかかる義務があると主張されている被告阿川利量及び同桑内利男は、本件訴訟の被告適格を有するものというべきである。したがって、この点に関する右被告らの主張は採用できない。
2 本件請求中、昭和六三年四月ないし同年七月の指定タクシー料金合計金二〇一万八七五〇円(六五八万二七七〇円から四五六万四〇二〇円を控除したもの)の損害賠償請求は、その部分に関する監査請求が平成元年一二月一九日県監査委員により地方自治法二四二条二項所定の監査請求期間を徒過した後のものであるとして却下されたことは当事者間に争いがなく、同監査委員の右判断は正当なものとして是認することができるから、右部分の訴えは、適法な監査請求を経由しない不適法なものとして、却下を免れない。
よって、以下、本訴請求中のその余の部分について判断する。
三 本件公金支出の違法性の有無について
1 〔証拠略〕によれば、以下の事実が認められる。
(一) 徳島県は、職員及び県議会議員が公務上の移動のために、管財課長が指定する一般乗用旅客自動車(指定タクシー)を利用できるものとし、これらの業者との間で、運賃等の精算を所定のタクシー券により行う旨の契約を取り交わすとともに、昭和四九年以来右指定タクシーの利用に関する内規として、指定タクシー運用要綱を定め、現在に至るまで数回の改正を重ねている。
(二) 本件タクシー券の交付時における右要綱によれば、指定タクシーは、県有車両が利用できないときに限り使用することができるものとされ、そのためのタクシー券は、県の予算執行の権限を有する課長又は室長等が乗車券交付申請書により管財課長に請求して交付を受けた後、その所属する課又は室において定められた乗車券交付責任者が必要に応じて使用者に交付するものとされていた。また、右要綱によれば、右予算執行の権限を有する課長等は、翌年度の六月三〇日までに所属部署における当該会計年度の指定タクシーの使用状況を各月の件数及び使用料金の合計を記載した所定の指定タクシー使用実績報告書により総務部長に報告するものとされていた。このタクシー券は、使用前、課控用、請求用及び業者控用の三枚綴からなり、それぞれに使用年月日、乗車区間、使用者名、料金等の記入欄があって、使用の際に右の各欄を記入の上、請求用及び業者控用の部分のみを運転者に手渡す扱いになっていたが、課控用の部分の扱いについては明らかではなかった。
(三) 本件タクシー券は、被告桐川哲志が当時の指定タクシー運用要綱に従いその交付責任者となって交付したものであるが、同被告は、事務局職員に対しタクシー券を交付する場合には、公務の内容、行き先等を確認していたものの、議員からタクシー券の交付を求められた場合には、議員らの見識を信頼して、議員らに公務の内容、行き先等の確認をほとんどしないまま、一回に一枚から五枚のタクシー券を交付し、業者から運賃等の請求を受けた際には、タクシー券の請求用紙片に乗車区間の記入がなく、また使用者名の記入がないものについても運賃等の支払に応じていた。
(四) 県議会事務局における指定タクシー券の使用実績は、昭和六三年四月から平成元年三月までの間は交付件数が三五〇五件、使用料金は合計六五八万二七七〇円であったのに対し、平成二年四月から平成三年三月までの間は交付件数が一〇六六件、使用料金は合計三二万三二六〇円であった。
(五) 県監査委員である折野國男及び七条利夫は、平成元年一〇月二〇日から同年一二月一九日にかけて、原告らの監査請求を受けて、議会事務局における昭和六三年四月から平成元年三月までの間における指定タクシー券の交付及びそれに基づく運賃等の支払請求に対する公金の支出に関して監査を実施し、県議会事務局における関係書類の不備を指摘するとともに、指定タクシー券の交付事務及び使用の明確化と適正執行の留意を求める旨の付言を行った。これを受けて、県議会事務局は、県議会議長を通じて、議会内の各会派役員に対し指定タクシー券の使用における厳正対応を要請した。また、平成二年五月には、前記指定タクシー運用要綱の一部改正が実施され、乗車券交付責任者を各課(室)長とし、各課において、使用日、使用者、用務地、用務、使用枚数、料金等を記載した指定タクシー使用実績簿を整備することが義務付けられた。
以上のとおり認められる。
2 右認定事実によれば、指定タクシーの利用は公務上必要な移動のための手段としてのみ認められているものであり、県は使用されたタクシー券による運賃等の請求に対しては原則としてその支払に応じるものとされているのであるから、職員及び県議会議員に対しタクシー券を交付するにあたっては、交付時に公務の内容を確認するか、少なくとも後日業者側から運賃等の請求を受けた際に、そのタクシー券が公務上の目的で使用されたかどうかをチェックする必要があるというべきである。しかるに、徳島県においては、これまでこのような公務内容の確認や公務外使用のチェックが充分に行われないままタクシー券が交付され、また業者からの運賃等の請求に応じて安易に公金が支出されていた嫌いがあり、県の財政の健全性の見地からして相当性を欠く部分があったことは否定できず、そして、前記認定のとおり、昭和六三年度のタクシー券交付及びそれに基づく公金支出に関する監査の実施及び指定タクシー運用要綱の改正を機に、指定タクシーの利用件数が激減していることに照らせば、同年度のタクシー券の一部が公務外の目的で使用されていたのではないかという疑いを払拭しきれない。
しかしながら、本件公金支出に違法があるというためには、本件タクシー券による個々の指定タクシーの利用が公務外の目的のためのものであったことが明らかであるか、または、タクシー券の交付方法が法令の規定に違背したものでなければならないと解されるところ、本件においては、タクシー券による指定タクシーの利用を個別にみてそれが公務外の目的のためのものであったこと、それらの件数、支払運賃額等を明らかにする証拠はなく、そして、前示のような事情のみによっては、本件タクシー券がことごとく公務外の目的で使用されたと断ずることはできず、タクシー券の交付方法についても、指定タクシー運用要綱という内部規律に違反する部分があったとはいえ、それ自体法令に違背するものではないし、タクシー券の交付自体は地方自治法二三二条の五にいう支出にあたらず、これによる運賃等の支払も、指定業者との間で予め締結された契約に基づくもので同条に違反するものとはいえないから、これに原告の主張するような違法があるものとはいえない。
以上のように、本件タクシー券の交付に違法があるとは認められないから、これに基づく本件公金支出に違法があるということはできない。したがって、被告らに損害賠償責任があるという原告の主張は理由がない。
四 よって、原告の本訴請求中、徳島県が昭和六三年四月ないし同年七月の県指定タクシー使用のため支出した公金の返還を求める部分については不適法であるから却下し、その余の部分については理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 朴木俊彦 裁判官 近藤壽邦 佐茂剛)